※暴力表現 「立てって、今そんな強く殴ってへんやん」 「一氏さん…あの…そろそろ…勘弁してやってもらえませんか？」 「はあ？コイツが俺の彼女って知ってて手ー出したんやろ？」 「…すいませ…」 「ほな俺にどーされてもええって思ってやったんちゃうの？」 ユウジと同じぐらいの背丈の男の子が苦しそうに咳き込み続けているのを見て、流石に私もやめた方が良いと口を出したけど、お前は黙ってろと言わんばかりに強い視線で睨まれただけだった。付き添いの男の子は青い顔をして許してやって下さい、と繰り返している。 一週間前は、ユウジの下でぐったりとしている子に、私も組み敷かれて随分怖い思いをした。西くんと言うらしく中等部との合同練習の時にマネージャーとして足を運ぶうちにどうやらなつかれてしまったらしい。練習後に部室で告白されて、ユウジと付き合っていることを伝えたけど、構いませんと押し倒された。私は少しも構わなくない、と頭の中は妙に冷静なのに、中学生と言っても力で少しも敵いそうになく、大声でやめて、と叫んでいたら白石が戻ってきてくれた。私としてはユウジがこうなることが分かっていたので、彼には伝わらないのが一番だったけど、見過ごすことは出来ない問題だと白石と渡邊先生に判断され、西くんが退部になったり親が謝罪に来たりして、ちょっとした問題として噂になった。 暴力沙汰起こしたらお前も停部だと白石に釘を差されていたのに、ユウジは西くんが停学を明けるとすぐに呼び出して、無抵抗の彼をボコボコに殴った。可哀相に。ユウジは怖いのだ。 心配でついてきたけど、やっぱり私に彼を止めることは出来なかった。それどころか、私の右目の眼帯を見て彼らは一層血の気の引いた顔をして見せた。罰を受けたのは彼だけではないのだ。 このことがユウジの耳に入った時、私は少しの弁解をする余地も与えられず胸倉を掴みあげられた。どういうことなん？と何度も問い詰められたけど別にユウジはその回答を求めているようには思えなくて、私は何に対してか全く分からない謝罪を繰り返した。ユウジは汚いものを見るような目で私を一瞥して「もうお前ええわ」と言ったので、私は泣きながらごめんなさい捨てないでと縋り付いた。力強く振り払われた時に思い切りユウジの拳が右目にモロに入ってしまい、私の眼帯の下にはとても人には見せられない青痣が出来ている。 何でもするから、と私がぐしゃぐしゃになりながら叫ぶと、ユウジはその足で私をホテルに引っ張っていった。前戯も無しにツバを付けて無理矢理突っ込まれて泣きながらセックスをした。軽く首を絞められて死ぬかと思った。 吐き気を堪えながらぐったりしているとユウジが横で、「ごめんな、俺どうしたらええかわからへんねん」と言いながら肩を震わせて泣いていた。それを見て私は不器用で可哀相な彼のことがどうしようもなく愛しくなった。これが健康な感情でないことだけは分かっている。 ユウジの足の下で西くんは苦しそうに大きな呼吸を繰り返している。鼻の中が切れてしまったらしく鼻血が止まらないのを見て私はもう一度ユウジに声をかけた。いくらか気が済んだのかユウジは彼を地面に投げ捨てて「次は殺すから」と凄んだ。何の気持ちにもならないけどティッシュを置いていこうか、と迷ってやめた。ユウジをこれ以上刺激するのは良くない。 殴られている間きっと彼は後悔で一杯だっただろう。こんな目に遭ってまで私から得られたものなんて何もないし、そこまでの価値が私にあると思えない。いつも思う。私は自分の価値が見出せない。だから求めてくれるユウジに依存してしまう。泣きながらすいませんでした、と繰り返す彼を見てひどく同情したけど、きっといつも私もユウジに縋る時はあんな感じなんだろう。そして、私もこんな風にボロボロになっていってしまうんだろうか。ユウジのことも、抜け出せなくなってしまっている自分にも、どうしようもなく怖いと思うけど、それでも私にとってはユウジがいないことの方がよっぽど耐えられない。眼帯の上から軽くまぶたを押すとじんわりとした痛みが広がって何故か酷く安心した。 15. 明日が終わっても