いつになってもどこか鈍い俺はいつも無意識に女の子の地雷を踏んでしまう。

どうしてもこれは俺の好みで、甘えたがりで、頼りない俺よりもさらにちょっと頭のゆるい方が可愛く見えてしまう。


平穏な金曜日、彼女の作った特別うまくも不味くもない生姜焼きを食って、ピクサーの映画見て、楽しいかは分かんないけどなんかそういうのが幸せ。好きだよってキスして来たから、あ、そういう雰囲気かなって思って、俺もって返してそれらしいキスで応えようとしたら、「でも1番じゃないじゃん」って泣き出した。俺はどうすれば良かったのか。一体どのタイミングでスイッチが入ったのか、俺には一切分からない。


そりゃ根本的には俺が悪いって分かってる。目の前の彼女とは別に、俺には2ヶ月ほどロクに会ってない彼女がいる。週に数回の「おはよう」と「おつかれ」。どういうつもりかは分からないけどいつの間にかそうなってた。もはや不要の生存確認。

なんの自慢にもならないけど、大体告られてふられる。終わりかけたらこうして寂しい俺を慰めてくれる可愛い女の子が現れる。あんまりイケメンには生まれなかったけど、神様はまあまあ優しい。

もう終わったでいいじゃん、って唆す悪い俺と、でも別れるとは言ってないじゃん、とギリギリの俺の良心が戦っている。

そのうち向こうから言ってくるかなって卑怯な気持ちもあるけど、今家に来ている女の子、元々は会社の後輩で、会社の飲みでお互いまあまあ酔っ払ってた帰り道に「タクシーすぐ乗ったら吐いちゃうかも、休憩して帰りませんか」なんて誘ってくるスケベな女で、最高に可愛いんだけどイマイチ誠実に向き合えないのも事実。

「めんどいからふられるまで待って」って正直に言いたい。言えば、俺は全てを失うだろうけど。面白くない映画をダラダラ見るささやかな幸せも、彼女の出方次第では会社での立場も。人を傷付けるのは疲れる。どこにも荒波を立てたくない。最低なのは重も承知で、でも誘ったのはそっちじゃんって、俺だけが何歳になってになってもこんな恋愛をしている気がする。


最低ついでに本音を言うと、この時間からの喧嘩は非常に面倒臭い。彼女が泣き出した瞬間の時計は23時46分。当然お泊まりコースで、観たくもない映画を観てまったりしていたのだ。帰るって言ってすぐに帰ってくれれば正直終電には間に合うけど、長引くと朝まで話し合いコースだ。当然俺の選ぶような子はここからが長いところで、なんとか仲直りエッチに持っていければ最高シナリオだけど、内容的に今日はすぐに終わりそうもない。

案の定、ちゃんとするから、しないじゃんの言い合いをするうちに終電がなくなり、そんな頃になってから「今日は一緒に寝たくないから帰る」なんて言い出すんだ。


「電車もうないじゃん、どうやって帰んのよ」

「…駅前の漫画喫茶に泊まる」

「無理無理危ないから、嫌かもしんないけど今日は一緒に寝よ?な?」


「ふみくんのそういうだらしないところが嫌い!!」彼女が一際甲高い悲鳴のような声を上げる。壁が薄いんだ、勘弁してくれ。

あとはもう何を言っても無駄だから、ごめんなを繰り返して彼女の気が済むまで、抱きしめて頭を撫で続けるだけだ。付き合ってもない男に意味深な休憩をけしかけるお前の貞操はだらしなくないのか、と思わなくもないが、何か言えばまた火に油を注ぎかねない。3時か4時には寝られるだろうか、また頭の隅でそんなことを考えてしまう。腹の底で疼いてた性欲は消え失せた。本当はタクシー代を渡すから帰って欲しい。一人安息の眠りにつきたい。


この間、結婚するから紹介するって花井が連れて来た彼女、美人だったしすげーしっかりしてた。田島の彼女も飲んだことあるけど、ノリ良くて気遣わなくて感じ良かった。

彼女を友達に会わせた試しがない。俺の大切な人達に迷惑をかけるのではという心配ばかりしてしまう。

どう考えても俺の選択が悪い。でも今腕の中で泣いてるこの子だって、元々は良い子だった。会社でも愛想良くて真面目でいつも明るくて、いいなって思ってたからこうなっているのに。泣いたり喚いたり、きっと自分でもしたくないだろう。俺が変えてしまったに違いない。


付き合ってる彼女も顔がタイプで、紹介された時盛り上がってるうちに終電なくなってラッキーって思ってなあなあで付き合った。その日寝たかったから付き合ったのか、付き合ったから寝たのか、俺の幼い理性は未だに正しい判断が出来ない。ちゃんと好きだったような気がするけど何で連絡が減ったのか思い出せない。俺が冷めたんだっけ、向こうが冷めたんだっけ。


全部清算したい。今度は理性を失うまで酒なんて飲まないから。それで俺の何が変わるとは思えないけど。




無音の告白