「電車動いてない」

「うそやん」

「ほんと」


ホラ、と運休情報の掲載された交通情報サイトの画面を見せると、水上は眉を顰めて画面をまじまじと覗き込んだ。こんな嘘をつきかねないと疑われているなんて、滑稽だ。

嘘でもなんでもなく、私達の住むこの災害の多い小さな街のアクセス環境は非常にお粗末で、台風だなんだで電鉄が一つでもストップしようものなら最寄り駅までの足なんて簡単になくなってしまうのだ。


2日前の金曜の夜、任務帰りの馴染みのメンバーで飲んだ帰りに私は同じ理由で水上の家に転がり込んだ。実家暮らしが初めて幸いして、ギリギリ足のあった本部メンバーがバタバタと帰路につき、市内にアパートを借りる水上に、私の面倒が託された。

水上はギリギリまでタクシーを拾おうと奮闘していたけど、同じ考えの人間でロータリーはごった返しており「朝まで置いてくれれば電車で帰るから」という私の提案は不自然にならずに済んだ。気の知れた友人であれば、元より不自然になることなどないのかもしれないけど、彼が必死でタクシーを捕まえたかったということが全ての答えだ。溢れ出す私の好意も、成り行きで夜を共にすることも望まれてはいないのだ。


一緒に寝たいという私の申し出に、もちろんその先を汲み取った水上は「それめんどくさいことにならへん?」と快諾はしなかったものの、拒否もしなかった。

「ならへん」と独特の方言をふざけて真似て返せば、ふわりと彼が笑ったので私はそれを許容と受け取って、空気が変わらぬうちにと流れるように彼の懐へともぐりこんだ。


幸か不幸かあの日から降り続ける雨は勢いを弱めることなく、私を留まらせる理由を作り続けてくれていた。びしょ濡れになりながら近所のコンビニに行って食材を買い貯めた私達は、薄暗い部屋で微睡と現実の間のような曖昧な時間を過ごした。世界から切り離されたような空間は、所謂パラレルワールドのような感覚で、恋人のように食事の延長にセックスをして眠ることがずっと続くわけじゃない。水上のことが長く好きだった。でも水上は私のことを特別好きにならない。のらりくらりの彼のことだから、こういう形であればきっと持ち込めるだろうって思ってた。案の定水上は了承しただけで、求めてはくれない。

ぼんやりと天気予報を眺める彼は、きっとこの空間の違和感を取り戻し始めていて、そろそろ目覚めたがっている。



「ラッキーとか思ってへん?」

「ちょっと思ってる」

「一応困ってるふりせえよ」

「いいじゃん、今日もサッポロ一番食べようよ」

「えー飽きたわー」



彼は、大雨の中を無理に帰らせることはしないという常識的な優しさは持ち合わせていても、面倒だという顔を隠そうとはしない。私たちの関係はそれに尽きるのだ。雨の音を聞きながらインスタントラーメンを一緒につつくような、ささやかな幸せが続く日々ををきちんと築いて行きたかった。どうして水上は私のことを好きになってくれないのだろう。こんなに止まない雨を願ったのは初めてだ。




泥沼の水浸し