ぬるくなったストロングをまた一口飲み込んで、隣を歩く木葉くんに手渡す。彼も同じようにまたそれを口に含む。繋いだ右手は熱を持っている。

たいして仲の良いゼミではないけど、私達大学生には時間だけはある。さらにゼミ費用で旅行に行けるとなるとそこそこの人数が集まって、お決まりのように夜はこれぞ大学生と言わんばかりに大部屋に集まってどんちゃん騒ぎだ。これまでたまに開かれていた飲み会には部活で忙しい木葉くんの参加率は低くて、そういう男の子がいるという認識しかなかった。要するに、ついさっきまで私達は手を繋いで海辺を散歩する関係なんかではなかった。

準備の良い誰かが持ち出したトランプで大富豪が始まって、酔いの回った私は立て続けに大貧民で、罰ゲームとして足りなくなったアルコールの買い出し係に任命された。流石に一人では可哀想だと、追加の荷物持ちとして貧民の木葉くんが同行することになった。
寂しいゼミ費用では選べる旅館など限られていて、近くには海と山しかないこの神奈川のど田舎で徒歩30分かかるコンビニの往復を命じられるなんてまさに罰ゲームでしかなく、この展開は予想外だった。
暑さを凌ぐためにシェアすることとなった缶チューハイは、結果として私達の温度を上げて判断を狂わせただけだった。

いつきちんと手を繋がれたのか思い出せない。ただ遠慮がちにぶつかる手の甲は何かを誘っていた気がするし、私もそれを待っていた気がする。

「木葉くん、ずっと飲み物の方持ってて重くない?替わろうか」
「超重い、絶対ちゃんには持てない」
「私結構重いの持てるから替わるよほんとに」
「嘘、ヨユー、でも酒回ってるからちょっと座りたい」

堤防に腰掛ける。落ち着いて腰を落としたところでこれまで関係のなかった私達には積もる話などない。会話の代わりに木葉くんの長い指が手の甲をくすぐって、私はこしょばい、と笑いながら押さえつけるようにグッと力を入れて手を握る。


「痛い痛い、っていうか熱い」
「木葉くんの方が熱い」
「絶対ちゃんだわ、でも俺顔は今めっちゃ熱い」


ほら、と私の手を自分の頬に持っていく。熱くて、湿っている。木葉くんの肌がこんな感触だって知らなかった。得体の知れないものが内側に入っていくような感覚がむずがゆいけど心地良い。


ポケットのスマホが震えている。木葉くんのも同じようにバイブ音が響いていて、きっと旅館に残るメンバーからの催促に違いない。
帰りたくないなんて、言えるわけがなく、ただ照れ隠しに「行く?」と問いかける。「もうちょい」と、木葉くんが立ち上がらないことに安堵していると、彼が一段と距離を寄せる。


「まだチューしてねーし」


鼻先に彼の色素の薄い髪がサラリと掠めた。昨日まではこんなことになるなんて思いもしなかったくせに、今はこの時のために生きてきたような気すらしてくる。
私の下の名前すら知らないであろう彼と、明日からどうなるのかは、今は考えたくない。






ひとつまみの夏