「えーバレーやってたんだ?」

「意外?俺結構背高いっしょ、見えない?」

「木葉くんは全然スポ根のイメージがない」

「いやいや俺結構強豪校だったから、家に表彰状とかあるし、見せるわ今度」



彼の中で、私を家に招き入れるイメージが既にあるのだな、と彼の下心を汲み取って少し手が止まる。そして「どうしようかな」なんて汚い打算が私の中でも始まる。


先週の合コンで出会った木葉くんは、彼女がいるから数合わせだと主催の友人は律儀に教えてくれていた。でも友人がお勧めだと推してくれた男性はイマイチ私のときめきの琴線に触れず、気付けば忠告も無視して、彼女がいないフリを決め込む木葉くんとラインを交換していた。何故か共犯者のような気分になって友人には言えずにいる。

涼しい目元とか細長いシルエットが、なんとなくその夜いたメンバーの中では私の好みだった。それだけだったけど、誘われれば悪い気はしなくて、言われるがままに金曜の夜にこうして彼と酒を交わしている。2軒目までのこのこついて来て、その先の想像が出来ないほどもう子供ではない。「どうしようかな」と思いながらあと一手を待っているのはもはや私だろう。


終電で帰るならこれが最後の一杯だ。彼も私の反応を見ながら次の一手を考えているのかチビチビと口をつけるハイボールは中々減らない。そんなことを考えられるほどの冷静は保っているけど、彼の次の手で折れる準備は出来るほど体内のアルコール濃度は整っている。

スイッチを自分で入れるのは難しい。友人が勧めてくれた男は清潔感のある爽やかな人で、他に選択肢がなければきっと二度三度食事に行って付き合う可能性だってあるような人だった。でも自動的にスイッチは入らなかった。

スイッチを切るのもまた難しい。バレーボールをしていたと改めて聞いて見る木葉くんの手は確かに大きくて、長い指に触ってみたいと私の好奇心を煽った。


「指、綺麗だね」

「そ?ちゃんの方が綺麗じゃん?」


ああ、次の手を与えてしまったと浅く後悔する。彼にもアルコールの後押しがあるのか、無遠慮の私の手に触れる。「ネイルかわいーね」と、指を絡められて、やっぱりやめておこうと頭の中では冷静に考えているのに、その手は振り解けない。


「俺んちで飲み直す?」

「彼女いるって、聞いたけど」

「何ソレ誰に聞いたん、ほぼ終わってるよ、連絡とか取ってねーし」


一か八か、切り札のつもりで彼女の話を出してみるけど木葉くんは怯まない。慣れてるのかもという警戒を、でも本当なのかも、と浅はかな欲が打ち消していく。それよりちゃんに表彰状見せたいわ、なんて言って私の手は離さない。その調子で早く押し負かして欲しい。もう、この攻守の結末を考えるのが面倒になってきた。この後大して興味もない表彰状を見せられて「スゴイ」なんて笑っている自分が想像出来る。私の反応を伺うようにじっと見てくる目を私も見つめ返して、やっぱり嫌いな顔じゃないな、なんて考える。

終電、後何分でなくなるんだっけ。




ありきたりな夜