lack of sweetnessの続き









始まりがどこからだったのかも分からなければ、終わりもそれはもうふわっとしたものだった。
大学生になってある程度自由が与えられて、兄夫婦に占領された実家から逃げるように一人暮らしを始めた。一人暮らしのはずがいつの間にか居候する先輩との曖昧な同棲生活が始まって、一緒に飲んだりテレビ見たり寝たりをするだけのゆるーい日々が続いた。周りには彼女だと思われていたりもしたらしいけど、別にそんな話をした覚えはない。なんとなく居心地の良い日々に付き合うとか付き合わないだとかの契約を結ぶことは野暮なようにも思えたし、先輩が望んでいるとも思えなかった。もし先輩が望んでいたとしたら、俺が断ることはなかっただろうけど、先輩の気が向いた時のみのたまのキスにセックス数回だけ、十分だとも思わなければ不満だとも思わなくて、なるようになるなんて言葉があるけど、俺と先輩はそうならなかった。それに尽きる。


関係を結んでいないのだから、必要でなくなれば終わりは来るのだと思っていたけど、変化のない日々の中でそれは想像出来なかった。実際は、授業が少なくなると学校から近い俺の家に居座る理由はなくなったし、シューカツとかで忙しそうにしていて、実家に帰ってたのか他の居座り先を見つけたのかは知らないけど、少しずつ俺の家から離れていった。実際夜型のアルバイトの俺と昼型の先輩は住処を共にしているだけでいつも一緒にいるわけではなかったし、寂しさや違和感を感じることもなかったけど、とにかく先輩は俺の家から離れていった。出て行った、と呼ぶほど先輩がうちに執着していたとは思わなかった。


その代わりなのか何なのか、俺の家には暇を持て余した友人や中高時代の先輩が居座り始めて、なんかやっぱり、「さんが出て行って寂しい」とは思わなかった。


「お前さ、何でと付き合わんかったん」
「何でって言われても、別に付き合おうとか言われなかったんで」
「お前から言おうとか思わんかったん?」
「別にないすね」


謙也さんは昔から野暮だ。男のくせに何かと色っぽい話が好きで、その割りに真っ直ぐなもんだから、この人と恋愛観とかそーゆーので分かり合える日はきっと来ない。だから俺も、先輩との数回のキスや既になかったことになっているセックスとか、余計なことは言わない。理由なんて俺だって分からないのだから。


「でも実際さ、嫌いやったらずっと一緒に住むとか無理やろ?」
「一緒に住むって、あの人ここ寝床にしてただけですよ」
「でもお前自分のテリトリー犯されんのとか嫌いやん、そんだけ一緒におれたんって合ってたんちゃうん」
「まあ合わなかったら追い出してたかもしれないすね」
「ええん?もう、このままで」


ええん?って言われたら、ええかな。って思う。さんとの日々が忘れられません、ちゃんと付き合ってください、とか、その方がよっぽど違和感感じる。自分でもどうしたかったのかなんて分からないし、どうもしたくなかったから今の現状なんだろうけど、まあ一人よりは楽しかったかなって思う部分もあって、そう思うと何やったんやろあの時間、とか思わなくもないけど、何やったんですかって聞いたら、あの人は何て言うんだろう。


「近すぎてよう分からんくなってたんちゃう?これを期にもっかい始めたらええんちゃうん」


もっかい始めたら。という言葉が妙にピンと引っかかった。もう一回始めたい?って言われたら、もう一回始めたいかもしれない。あの構築されていた関係は、落ち着くのと同時にどこか怖かった。気付いてすぐに、もう遅いわ、と完結する。あの人も同じような思いを抱えていたんだろうか。いつかあの人の気まぐれでキスをされて、俺が何も考えずに「なんすか」と言った時にさんが妙に不安そうな顔をしていたことを思い出した。なんとなく。










04. 追いかけっこ