元々高校生には似つかわしくない妙に大人びた優しさがある奴だった。それでいてそんなことを思わせない気回しが出来て、男女関係なく気さくと来たもんだから密かに憧れている子も多かった。私も例に漏れなくそのうちの一人で、空気の読めすぎる彼に自分の密かな恋心が知られないよう精一杯彼にとって健全な友人であるように演じた。


「浜田に年上の彼女が出来たらしい」と、人気者の彼の噂は残酷にも私の耳にもすぐに飛んできて、私は人知れず失恋した。年上、と言っても上級生なんかではなく看護学校に通う5つも年上の女であるらしく、面白可笑しく尾ひれがついて「浜田の彼女はナース」だと、艶めかしさを思わせる内容へと変化していった。


私は失恋の傷を抱えていたけれど、同級生のしょうもない女と付き合われるよりも「大人の女と付き合っているらしい」という事実はいくらか私もプライドを支えていて、「なんかあったら聞くよ」なんて背伸びをする余裕を持たせてくれた。


程なくして浜田は欠席が目立つようになり、最初は「年上の彼女に手一杯なんだ」と笑っていた皆が、声色を変えて「妊娠させたらしいよ」と声を潜めて話すようになった頃には、パタリと学校にも来なくなっていた。噂の真偽を知る術もなく、万が一に噂が本当だったとして、本当に私に相談なんてされても到底手の及ばない領域へ行ってしまった彼を心惜しむ他なかった。


未練がましく、私のことを忘れてほしくないというせめてもの抵抗として、定期テストの度におせっかいは承知でテスト範囲を送ったりもしてみたが、浜田からは「ありがとう」とラインが返ってくるだけだった。当の本人が顔を出すことはなく、あっけなく留年した彼は私と同級生ですらなくなってしまった。


私の学年が変わると、浜田はまたしれっと学校に来るようになった。「何か」が解決したのか、何事もなかったかのように野球部の応援団なんて始めた彼は、消えていた日々の後ろめたさを少しも思わせない。廊下でたまにすれ違えば「おう」と前と変わらぬように話かけては来るものの、「彼女を妊娠させて留年したかもしれない男」はやはり遠い世界の人間に変わってしまったように思えて仕方なかった。


浜田に何があったのか、今何を考えているのか知りたいけど、知るのが怖い。

私はただひたすらに幼くて、焦がれていた。それだけだった。




こんなに柔い棘ひとつ