丸井の彼女になるのは簡単だ。よっぽど好みから外れているとか、付き合っていく上で弊害があるとかでない限り、彼は告白の返事を断ることは無い。その代わり、そんな始まり方をして、まともに付き合えたことがある子も私は見た事が無い。キスとかセックスとかいわゆる体目的として遊びで付き合うなら彼は非常に刺激的かつ見た目も良いんだから良い相手だと思うけど、そんな恋愛ごっこに私は意味を感じない。そして、そういう付き合いをした後の彼女たちは大抵丸井の中でなかったものとされる。居たような、居なかったような、丸井曰く「付き合ったうちにも入んねえだろ」ということらしい。









「あんたって丸井と仲良いけど付き合いはしないんだね」





よく友達に言われるこの台詞に、私は決まって「ないでしょ、アイツ落ち着く気ないじゃん」と返す。私からは行く気がないけど、付き合う気がないわけではないことを仄めかす、このしたたかな台詞に自分でも寒気がする。この台詞を言われて、私がこう返す時には大抵丸井とセットでいる時で、丸井は大して本気にもしていない冗談めいた口調で「人のこと言えんのかよ」なんて言いながら小突いてくる。傍から見ればさも仲睦まじく見えるであろうこのやり取りを見て、友人が「ホラお似合いなのに」なんて言って来れば、全く私の思惑通り。私はこういう努力を欠かさない。






私はたまに彼氏を作る。選び方は丸井と全く同じ。言い寄られる分には、よっぽど好みから外れているとか、生理的に無理とかでない限り断らないし、向こうからの好意を目ざとく察知して、うまくいくように誘導してみたり、無理ならさり気なくそれ以上は来させない。我ながら最高に性格が悪いと思う。本能的に繰り返す丸井よりも、自覚がある分私のほうがタチが悪いのではないかとすら思う。
想いのない相手との付き合いはそれなりに楽しくて、それなりにつまらない。続けることを目的としていないから、潮時だと思ったら私から引くこともあったけど、感情の起伏がほとんどない私との付き合いは、それはもう付き合い甲斐が無かっただろうと思う。私に気持ちが無い割りに、フられることも多かった。
その度に、「また別れたんかよ」と言って笑う丸井を見て、この男は私が自分のことを好きだなんて夢にも思わないことを再確認して安心する。くだらないことにわたしのプライドはこんなことで守られている。







「遊ばれるって分かって付き合う馬鹿はいないでしょ」
「ひでーな、お前だって大概悪女だろ」
「私は別に遊んでない」
「真剣じゃないんだから一緒だろ」
「落ち着きたいって思ってるよ、私は」
「ほんとかよ あー俺もちゃんと落ち着ける日が来んのかね」
「来るでしょ、一生そんなことしてるつもりなら別だけど」
「それはねーわ、俺だって好きになれるならなりてーし」







多分丸井は私が迫れば断らないと思う。でも私から言ってしまえば私の積み上げてきた小さな努力が無駄になる。だから私は少しずつ丸井の中で特別化されるように日々努力を絶やさない。簡単に切れない関係になるように、それでいて完全に友達にはなってしまわないように。細やかな調整をしながら丸井がまた新しい彼女を作るのを見守ったり、私が新しい彼氏を作ったり、そんなことを繰り返しながら丸井が、「やっぱお前だわ」って折れてくれる日を待ち続ける。

















06. 意気地なし